株式会社はてなを退職しました

2018年12月21日の今日がはてなでの最終出社日となりました。 はてなには、2013年12月に新卒として入社し、その後5年間に渡りお世話になりました。

はてなとの出会いのきっかけは、2011年のはてなインターンに参加したことでした。 はてなインターンの特徴の一つに、ほとんどの参加者が参加したときの内容をブログ記事として書いていることがあります。インターン参加記事には、技術やWebに対する大きな熱量がこもっており、すっかり自分もWeb技術をやっていくのだと感化されました。 ダメ元で選考に望んだところ、運良く選考通過のお知らせをいただいてとてもうれしかったことを今もよく覚えています。 そこから毎年インターンの参加者をみてきていますが、とてもハイレベルで、よく自分が選考通過したものだと今でも思います。 この出来事が自身の人生にとって大きな転機だったと言えるでしょう。

インターンの1年後にアルバイトスタッフとして入社し、配属されたのは、はてなのITインフラを担当するシステムプラットフォーム部という部署でした。 今でこそ当たり前のようにSREのような基盤技術を専門としていますが、当時はサービス開発をするアプリケーションエンジニアを志望していました。 しかし、システムプラットフォーム部での仕事を通して、サーバがたくさんあってそれらが相互に通信してひとつの系をなすというWebシステムに魅せられ、研究もたまたまTCP/IPスタックとGPGPUに関するテーマを提案してやっていたこともあり、今でいうところのSREを志しました。はてなで大規模サービスのインフラを学んだ - ゆううきブログ の記事にて、志した結果、何を学んだかを書いています。 そこから新卒で内定をいただいたにも関わらず、大学院を中途退学してしまいましたが、その後も快く受け入れてくださったはてなにはとても感謝しています。

はてなでは、Webシステムの基盤という軸はかえずに、様々な仕事をさせていただきました。 サーバ監視サービスMackerelのリリースから、その後の運用、はてなブログ、はてなプラットフォーム系サービスの運用、仮想化基盤などの基盤システムの運用、レガシーOSの移行、データセンター移行、時系列データベースの開発、プロジェクトマネジメント、チームマネジメント、シニアエンジニアとしてのメンタリング、採用、技術広報などをやってきました。 このような直接の業務以外に、オープンにアウトプットをするということに力を注いできました。 ブログ、登壇、OSS、最後は論文というように複数の媒体で、エンジニアリングからアカデミアまで様々な場で、技術を自分なりに表現するということをやってきました。*1 大した特技のない自分が曲がりなりにもエンジニアとしてやれているのは、オープンネスの風土が根付いていたはてなにいられたこと、その風土に大きく影響を受け、はてなのエンジニアらしくあろうと実践してきたおかげであると思っています。 また、オープンにいろいろやっていると、副次的に社内のエンジニア職種以外の方からも覚えていただいたり、PR記事にて対談させていただいたり、様々な方々と関われたことをうれしく思います。

調子よく仕事をさせていただいていたおかげで、どんどん等級もあがり、給料もあがっていきました。 その一方で、入社前に思い描いていた仕事と実際の仕事の内容には乖離があり、入社後の5年間はこの乖離を埋めるために奔走してきました。 入社時期の2013年といえば、クラウドやdevopsといった新しい技術や考え方が浸透し、それまで他の人が作ったソフトウェアを動かすまでが主な仕事だったインフラエンジニアが自分でソフトウェアを書いていくぞという時代になってきたころだと思います。 そのような世の中の影響を受けているのか、入社面接で自分が用意したプレゼン資料を今みると、基盤のためのソフトウェア開発をやっていきたいという思いが垣間見えました。 しかし実際には、なかなかソフトウェアを書いて貢献していくという時間を業務内でつくることが難しく「スタートラインに立てていない」という思いが募っていきました。

そこで、状況を変えるために、業務として期待される以外に自主的に様々なことをやってきました。 入社1~3年目は、とにかく人数の問題だと捉えて、ブログ執筆や登壇を繰り返し、会社のWebオペレーションエンジニア(現SRE)のプレゼンスを向上させることに努めました。 このようなアウトプット活動は実を結び、最終的に自分だけでなく2016年はてなWebオペレーションエンジニアのアウトプット にまとめたようにチームメンバー全員で多くのアウトプットを生み出すことができました。*2 さらに、この頃から等級もエンジニアの主力クラスに上がり、シニアエンジニアやプロジェクトリーダーも任されるようになり、自分が制御できる範囲も徐々に増えてきました。 プロジェクトマネジメント、メンタリング、チームビルディングなどのスキルを学び、実践する機会が増えてきました。 その中には、多くの失敗があり、制御できないことを強引に制御しようとしてしまうなど、うまくいかないこともたくさんありました。 たくさんの失敗をしてきた中で「インフラオーナーシップ推進*3」、「本格的なシステム移行」、「基盤領域におけるプロジェクト推進のフレームづくり」の自分のなかでの3本柱が、様々な方々の協力の元に、この1年で所属部署や開発本部全体の取り組みとして扱われ、軌道に乗りつつあり、これからはてなのインフラが成長していくための種は残せたかと思います。 システムプラットフォーム部では、新メンバーもずいぶん増えて、新しいチームとしてどんどん進んでいるのをみて、非常に頼もしく思います。

じゃあそれで問題なしでいいじゃんということになりますが、自分自身について振り返ってみると、自分の仕事を管理・運用・開発・研究というような区分をしたときに、もともとは運用*4が支配的だったところに、人や組織など専門技術以外の管理に関する仕事も増えてきました。 それらの仕事は決して嫌いではなく、ものによってはむしろ率先してやっていたこともあります。 しかし、最もやりたいことであるはずの開発・研究*5については、業務時間の1割にも満たないという状況でした。 そして、自分の性質上、9割を占める業務を放り投げて、やりたいことをやるということはなかなかできませんでした。 となると、必然的にプライベート時間でどれだけ開発・研究をやっていくかという戦いになります。 また人の問題に関わるようになると、リフレッシュのための時間を多く必要とするようになりました。

このままではまずいなあと思っていたところに、僕の師匠であるところのまつもとりーさんが退職されるというご連絡をご本人からいただき、深く考えさせられることとなりました。 というのは、まつもとりーさんが退職される理由そのものが、あれほど高いレベルではないにしろ、自分が抱える問題意識とよく似ていたからです。 そこから内省した結果、いくつかのタイミングの問題もあり、転職することを決めました。

1ヶ月の無職期間を経て、2019年2月からは、さくらインターネット研究所で研究員として、インターネットやウェブ基盤技術の分野で研究開発に取り組んでいきます。 職種はSRE(Site Reliability Engineer)から研究員となり、業種はウェブコンテンツ事業者からホスティング・クラウド事業者へと変わり、新しい挑戦をしていきます。 ある日の休日に散歩していたら突然転職の選択肢が脳内に降ってきてすぐに、まつもとりーさんに声をかけさせていただき、快く相談に乗ってくださったことにとても感謝しています。 いきなり田中さんへつないでいただいたことにはびっくりしました。 お声がけさせていただいてからすぐにお時間を作っていただいた田中さんと鷲北さん、お話をさせていただく時間をつくっていただいた熊谷さん、@yamamasa23さん、@hnakamur2さんに感謝しています。(誤って@yamamoto_febcさんと書いており、申し訳ありません。ご確認いただいたhnakamur2さんありがとうございます。) さくらインターネットの本社が大阪のグランフロントにあり、京都から通勤可能かつ在宅勤務もやりやすい環境とのことなので、これまで通り、京都でのんびり過ごしていきます。

研究開発をやっていくことに決めた後に、印象的なできごとがありました。 先日のAWS re:Invent 2018にて、Amazon Timestreamというフルマネージド時系列データベースが発表されました。 時系列データベースの論文を書いた - ゆううきブログ にも書いたように、これまで時系列データベースの開発・運用を長くやってきて、学術の世界で、新しいアーキテクチャとして提案し、クラウドを新たな基盤として、これまで実効性の観点で採用しなかったであろうアーキテクチャを考えていくことについて書きました。 しかし、IoTの流行による後押しがあるとはいえ、Timestreamの登場により、AWSのようなグローバルの大手クラウド事業者は、ある程度アプリケーションに近いドメインの基盤ソフトウェアをサービス化してくることがわかりました。 最近のクラウド上のマネージドサービスの進化はとても興味深いものであり、AWSのアップデートは熱心に追いかけていますし、クラウド以外にインフラストラクチャに関するOSSプロダクトの進化もすさまじいものがあります。 しかし、それらを使うだけになってしまうという危機感も同時にありました。 そこで、これまでクラウド前提でやってきた頭を切り替えて、あえて自分たちでつくっていくという挑戦ができればと思っています。

はてなの皆様、5年間大変お世話になりました。はてなで得たことは間違いなく今後の人生のベースになるものばかりだと思います。そして、はてなの方々の優秀さをこれから相対的に知っていくのだと思います。これからも、引き続きよろしくお願い致します。

*1:実績ページ https://yuuk.io/のアウトプットはすべてはてなでの経験が元になっています。

*2:一方で、継続してチームでアウトプットしていくというところまでは届きませんでした。

*3:プロダクトオーナーシップという大きな取り組みのうちのインフラ領域に関する方針

*4:新規サービス構築も含む

*5:SREでいうところのソフトウェアエンジニアリング・システムエンジニアリング、論文執筆、アウトプット活動など