情報処理学会でウェブオペレーション技術について招待講演した話

情報処理学会インターネットと運用技術研究会が主催されているIOTS2016という研究会で、「サーバモニタリング向け時系列データベースの探究」というタイトルで招待講演をしてきました。

講演のきっかけ

インターネットと運用技術研究会(以下IOT研究会)というのは僕にとっては id:matsumoto_r さんが所属されている研究会です。 matsumotoryさんが、ちょうど2年前のアドベントカレンダーで書いた僕の記事に日本語だとIPSJのIOTは分野的にもインターネットの運用技術が含まれるので興味深い論文が沢山あると思う とコメントしていただいたのが最初に研究会の存在を知るきっかけだったと思います。 そのときはそんなものもあるのかと思ってちょっとプログラムを眺めた程度でした。 しかし、まさかその2年後にこうして招待していただくことになるとはもちろん思っていませんでした。 id:MIZZYさんがserverspecの論文をだされた研究会でもあります。

きっかけは、今年の6月ごろです。 やはりmatsumotoryさんに講演とは別件のとあるびっくり無茶振りを受けました。 そして、少し前にIOT研究会へいくつかの資料を提出したところ、次のIOTS2016で講演してくれという話をいただきました。 IOTSがどんなものかわかってなかったのですが、査読付きで1年で1番大きな研究会であり、matsumotoryさんがそこで招待講演できるの羨ましいとおっしゃっていたので、じゃあやります、と答えました。

講演内容

講演するにあたって、当たり前のことですが、まず伝えたいことを考えました。 IOTS2016の開催案内をみてみると、「運用でカバーする」、「運用担当者の人柱の上に成立する前時代的で野蛮な構造物」、「不快な卑しい仕事をやる必要がなくなるのは、人間にとってひじょうな福祉かもしれないが、あるいはそうでないかもしれない」といったなかなか興味深いセンテンスが散りばめられていることに気づきました。 研究者と技術者という、コンテキストが異なるものの、同じ運用技術に携わっているという前提があります。 そこで、ウェブサービスの運用の世界で実際に起きていることと生の課題を伝えようと思いました。

これを伝えるための話作りには、いくつかの案がありました。 ひとつは、そのまま「ウェブサービスの運用の世界」といったタイトルで、ウェブオペレーションを概観する話をするというもの、もうひとつは、時系列DBやコンテナ型仮想化など特定の技術の話をするというものです。

最終的には後者にしました。 ちょうど時系列DBのアーキテクチャ刷新に取り組んでいるため、成長するサービスとスケーラビリティといういかにもウェブオペレーション技術っぽい話ができます。 自分がまだ大学にいた頃から取り組んでいたことであり、時系列DBの話をすることは自分がこれまでがんばってきた技術の話をすることにもなります。 さらに、研究会なのだから、論文にできそうなテーマならなおよいはずと思って、最新の取り組みを紹介したかったというのもあります。

だいたい話すことは決まっていたものの、ストーリー化することには苦労していて、2日くらい前にインフラチームの同僚何人かに見せたら反応が芳しくなかったので、同僚の意見を取り入れて、大幅にスライドを書きかえました。 無意識に研究発表的なスライドっぽくつくってしまっていた気がします。 トップダウン視点ではなく、自分視点に置き換えていって、アーキテクチャの説明はすべて図にしました。 会社としてというよりは個人として招待されたと思っているので、結果として自分視点になってよかったと思います。

matsumotoryさんには、見事に上記の意図をすべて汲み取っていただきました。

講演の導入には、まず異なるコンテキストのすり合わせをしようと思って、開催案内を引用させていただきました。 不快な卑しい仕事というのは、書籍Site Reliability Engineeringに書かれている"toil"に相当し、Googleでさえtoilからは逃れられていないが、toilではないエンジニアリングに価値を置いていると伝えました。 toilを消すことは、最近のエンジニアのコンテキストにおいても重要であり、そのような研究活動には価値があるということを暗にお伝えしたつもりです。

発表スライド

発表スライドを以下に貼っておきます。 あとで読む資料としてはまとまりがない点についてはご容赦ください。

若いと言われるが実際若くて平成生まれとか、IOTSの開催案内を会社の全体朝会で紹介したら社員のみんなが大喜びだったとか、アルバイト時代になんか癒やしとか言われてだまされてRRDtoolのCPANモジュールつくってたとか、入社するころにはRRDtoolは若者にはふさわしくないことがわかってきたとか、いつものように調子よくしゃべってたら笑いもとれたので、話をしていて楽しかったです。 以下のスライドがハイライトです。

講演を終えて

僕のことをご存知の方は、3年前に大学院を中退したことを覚えておられるかもしれません。 単に特定の環境とあわなかっただけというだけかもしれません。しかし、自身の体験だけでなく、社会人になってからも、大学の研究室で苦しんでいる学生たちの声を何度か聞くこともありました。 このこともあって、研究活動そのものはともかくとして、大学や研究室といった環境に強いネガティブな感情を今だにもっています。

今回の件は、大学から離れ、現場のエンジニアとしてがんばってきた成果をアカデミックな場で話すよい機会でした。 幸いなことに、思った以上に「話が通じる」という感覚を得られ、うれしく思いました。 もちろん、何を言ってるのかさっぱりだと思われた方も少なくはないでしょうが。 他の発表でもAmazon RedshiftとかKibana、Graphana、Elasticsearchなど見慣れた単語がとびかっていたので、安心感があります。

一方で、大学関係のシステムの運用を対象とした話がやはり多く、それらについてそれほど興味があるわけではありませんでしたが、おもしろく聴けた発表がいくつかありました。 特に柏崎先生の発表はとにかくいきおいのあるスライドというかこれは本当に学会発表か?と思うほどでした。 @hirolovesbeer さんの異常検知の話は質問したところ、イベントネットワーク以外にもサーバのログの異常検知にも使える可能性があるとのこと。

これ使えるなーと思ったものが論文優秀賞をとられていて、エンジニアの視点でよいものがちゃんと評価されるんだなと感じました。

ウェブオペレーションやSREに関する学術研究発表があればもっとおもしろく感じるだろうなと思います。 というのは、最近のウェブエンジニア界隈を眺めていて、それは本当に有用なのか、新しいおもちゃを使わされているだけになっているんじゃないかと疑問に思うことが増えてきて、真に有用な技術ってなんだろうなと考えたりすることがあるからです。

そういった考え方、アカデミックなアプローチで技術をつくるという方向性は自分の課題意識とマッチしているのではと思うことはあります。 博士過程へのお誘いもいただいたりしたのですが、前述のネガティブなイメージを払拭するのはすぐには難しいですね。 そもそも生半可な覚悟では社会人で博士号取得なんてできるわけないので、今後、「おもしろそう」「すごいことをやっていそう」「成長できそう」といった強いポジティブなイメージに転換できるかどうかが鍵になると思っています。

帰り際に、あのゆううきブログの中の人ですよね?と話かけていただいて、大学の中の人にまでリーチしているのかとちょっとびっくりしました。 大学を去ったその後に、大学の中の人に影響を及ぼしているというのは不思議な気分ですね。

この記事は、はてなエンジニアアドベントカレンダー2016の4日目の記事です。昨日は id:wtatsuru によるセキュリティ会の取り組みでした。 明日の担当は、buildersconで発表してきたばかりの id:shiba_yu36 です。